槍ヶ岳、穂高岳に向かうまで
昨年に計画しながらも、天候不安のために見送った槍穂高縦走。今シーズンは体力面でも技術面でも、この憧れのルートに挑む準備が整っていると確信していた。いよいよ実行に移すタイミングが到来したのだ。
計画として設定したのは、実家への帰省を兼ねた上高地起点のルート。1日目に上高地から槍ヶ岳を経て南岳、2日目に大キレットを越えて奥穂高岳から上高地への反時計回りの縦走コースとした。槍・穂高の順番の方が大キレットの難易度が下がるという情報と、1日目の行程が南岳小屋で区切りよく終了する計算から、このルート設定に決定。今回はテント装備は持参しない山小屋泊での軽量行程とした。
あとは当日の天候が好転することを祈るのみだった。
2019年8月9日 憧れの槍穂高縦走で大キレットに挑戦
昨年の焼岳・常念岳テント泊縦走でも利用したさわやか信州号で前夜に渋谷を出発。上高地バスターミナルに降り立つと、願いが通じたかのような晴天の気配が漂っていた。
実際に登ってみた
日程: 2019年8月9日(金) ~ 2019年8月10日(土) [1泊2日] 天候: 2日間とも晴れ
アクセス
【行き】 [渋谷発さわやか信州号] 渋谷駅マークシティ 22:00→5:20 上高地バスターミナル(7,600円)
【帰り】 [路線バス、電車乗り継ぎ] 上高地 14:05→15:10 新島々 15:25→15:55 松本(2,450円)
地図・標高グラフ
⏱タイム | 🏃距離 | ↗登り | ↘下り |
---|---|---|---|
17:26 | 39.7km | 3,417m | 3,411m |
コースタイム
1日目
ルート: 上高地BT-徳沢-横尾-ババ平-槍ヶ岳山荘-槍ヶ岳-槍ヶ岳山荘-大喰岳-中岳-南岳-南岳小屋[泊]
- 05:32
- 05:36
- 05:43
- 06:09
- 06:12
- 06:41
- 06:52
- 07:22
- 07:50
- 07:56
- 08:02
- 08:21
- 08:34
- 09:05
- 09:32
- 10:15
- 10:21
- 11:04
- 11:30
- 12:28
- 12:45
- 12:59
- 13:24
- 13:57
- 14:11
- 14:18
2日目
ルート: 南岳小屋-(大キレット)-北穂高岳-涸沢岳-穂高岳山荘-穂高岳-(吊尾根)-紀美子平-前穂高岳-紀美子平-(重太郎新道)-岳沢小屋-上高地BT
- 04:51
- 05:37
- 06:35
- 06:57
- 08:10
- 08:35
- 09:07
- 09:21
- 10:10
- 10:31
- 10:51
- 12:00
- 12:41
- 13:04
- 13:13
- 13:18
- 13:25上高地バスターミナル
下山後に一息つき、上高地バスターミナルからバスで新島々駅へ向かう。係員がバスの整理券番号を読み上げて順番に乗車させているが、並んでいる客の3割程度が外国人という状況で、このシステムに問題は生じていないのだろうか。
バスで新島々駅到着後は、上高地線で松本駅へスムーズに乗り継ぎ。そこから先は青春18きっぷの中央西線経由で実家に到着。長い帰省の旅路だった。
下山後の感想
コース状況・危険箇所等
【上高地~横尾】 奥に進むにつれて登山者の割合が高まる平坦路。
【横尾~槍ヶ岳山荘】 徐々に斜度を増していく槍沢コース。 序盤は森林の中で涼やかな水の流れを楽しみながら歩けるが、沢沿いになり樹木がなくなると早朝の直射日光が背面に当たって暑くなる。 コース途中のトイレは横尾かババ平テント場。 水場はババ平テント場か天狗原分岐を過ぎたところにある水沢の沢水。
【槍ヶ岳穂先】 登りと下りが別ルートだが、すれ違いは困難なため、タイミングによって往復に必要な時間が大きく変動する。 テクニカルな箇所はなく、落石の心配もほぼない。
【槍ヶ岳山荘~南岳小屋】 これまでの賑やかな登山道から一転、周囲に誰もいなくなる。 大喰岳、中岳、南岳の3ピークを越えるが、歩きやすい稜線で振り返れば槍ヶ岳も見えるので気持ちよい。
【大キレット】 南岳小屋からはハシゴが連続するガレ場をかなり下って最低コルへ。 白丸ペンキに誘導されるまま細かなアップダウンを繰り返し長谷川ピーク。ここが核心部。ありがたいステップも設置されているので、慎重に三点確保で進む。 A沢のコルまで来ると安心してしまうが、ここからの飛騨泣きが長大な岩登りとなる。 岩登りの最中で息を切らせると、何かあった時に対応できないので、若干の余裕を持ちながら登っていく。 最後は東に回り込みながら北穂高小屋へ。
【北穂高岳~涸沢岳】 大キレットよりもこちらの方が危険箇所が多いと感じた。 特に涸沢岳に登る途中には、両手で岩場に掴まり身体を使ってよじ登る場面があった。 一方で、涸沢岳頂上から穂高岳山荘はザレているが歩きやすく整備された登山道。
【奥穂高岳】 穂高岳山荘からは切り立った岩山に見えて迫力があるが、容易に登れる。 ただし、登山者が多いため、槍ヶ岳のように渋滞していた。
【吊尾根】 尾根の上ではなく、アップダウンのあるトラバース道。 難しい箇所はないが、これまでの道と違って白丸ペンキが明瞭でない場所が多かった。
【前穂高岳】 紀美子平からのピストンで、ザックをデポしたので岩場登りでも随分楽だった。 しかし、浮いている岩や小石が多く、登っている人も多いので落石には要注意。
【重太郎新道】 紀美子平直下は鎖が連続する急坂。あとは至って普通の登山道。 ここが下りに注意とされているのは、ここまでの行程で大腿四頭筋が疲労して足裏でのストップが効かなくなると、そのまま転がり落ちてしまうからなのだろう。
感想・記録
前々からやってみたかった槍穂縦走。昨年は準備不足を感じて、焼岳・常念岳・燕岳の縦走に留めた。まさしく様子見として山麓を横から眺めるにとどまったが、今年はプランも身体も万全、あとは天気だけという状況だった。
一週間前から連続で現れた台風の進路に気を揉まされたが、当日は最高の晴天となった。今年の山行は散々な天気ばかりだったので、神様が慈悲を与えてくれたのだろう。
槍ヶ岳はご褒美気分で穂先を目指して登り、大キレットは朝焼けの中で綱渡り、北穂高岳から涸沢岳はまさに岩登り、重太郎新道を下りると異界のような上高地。全てが美しかった。これまで山に登り続けて本当に良かったと実感する山行となった。
かかった費用と装備
交通費用
- さわやか信州号: 渋谷→上高地 7,600円
- 路線バス・電車: 上高地→松本駅 2,450円
- 青春18きっぷ等: 154円+青春18きっぷ 2,370円
交通費合計: 12,574円
宿泊費用
- 南岳小屋: 7,300円
宿泊費合計: 7,300円
食費・その他
- 食事: 朝昼晩 2日分 4,000円
- 行動食: 2日分 600円
食費合計: 4,600円
総費用
合計: 24,474円
今になって思うこと
日本百名山の中で人気の山といえば、槍ヶ岳と穂高岳は必ずトップに食い込んでくるだろう。自分も日本百名山への登山を始めた当初から常に憧れの山として意識しており、いつか大キレットを渡ってみたいと思い続けていた。
そして、この登山はこれまで登ってきた60座余りの経験と思い出の集大成でもあり、実際に最高の絶景と感動を与えてくれた。ここまで登り続けて本当に良かったと心底感じられた。
ここで重要なのは、憧れの山へ登りたいと思っていても、登る順番は後回しにした方が良いということだ。適切なマイルストーンとゴールを設定するのは、モチベーションを保つ上で極めて重要なことなのだ。
自分の場合は、この槍ヶ岳と穂高岳、そして最後に登った剱岳がご褒美としての山だった。憧れを最後まで取っておくことで、長い百名山の旅路を最後まで歩き続けることができたのだと思う。