皇海山に向かうまで
丹沢主脈縦走で36座目を達成し、いよいよ本格的な遠征登山シーズンが到来。群馬・新潟をまたがる4座(皇海山、武尊山、巻機山、苗場山)を3泊4日で制覇する野心的な計画を立てた。その最初の難関が、「日本百名山で最も登山口へのアクセスが困難」と悪評高い皇海山だった。
皇海山といえば、栗原川林道の悪路が核心部と揶揄されるほどの難所。鋭利な落石でパンクするリスクが高く、携帯電話も通じない山中でのトラブルは遠征計画の全てを台無しにしかねない。レンタカーでの挑戦だけに、より慎重な準備が必要だった。
装備面での課題解決
丹沢縦走で明らかになった最大の問題は、新しいツオロミーブーツでの靴擦れ。小指の外側が水ぶくれとなり、今後の長期遠征では致命的な障害になりかねない。モンベル恵比寿店で相談したところ、田中陽希似の屈強なスタッフからテーピングテープを患部に直接貼る対策を教わった。
装備購入リスト:
- MUテーピングテープ38mm: 476円(靴擦れ対策用)
- ジオライン クールメッシュ トランクス: 1,944円(夏山対応下着)
- S.R.スプレー330mL: 1,338円(防水スプレー)
- O.D.メンテナンス ダウンクリーナー: 756円(ダウン用洗剤)
ジオライン クールメッシュトランクスは軽量で通気性抜群だが、メッシュで透け透けなため「ほぼ履いていない気分」というのが正直な感想。しかし機能性は申し分なく、夏山での快適性向上に期待していた。
梅雨時期の準備
6月の梅雨時期ということで、レインウェアの防水性能維持も重要。購入した防水スプレーで自宅にてレインウェア全体に撥水処理を施し、悪天候への備えを完璧にした。ダウン用洗剤も併せて購入し、装備メンテナンスの体制を整える。
4座連続登山の戦略
今回の遠征は前日入りを含む3泊4日で4座制覇という、かなりハードなスケジュール。特に初日は皇海山と武尊山のダブルヘッダーという強行軍。しかし一番の心配事は、皇海山へのアクセス路である栗原川林道の通過だった。
栗原川林道は「皇海山登山の核心部」と呼ばれるほどの悪路で、落石によるパンク事故が後を絶たない。携帯電話も通じない山中でのトラブルは、その後の武尊山、巻機山、苗場山の予定を全て台無しにしてしまう。レンタカーにはスペアタイヤもなく、まさに一発勝負の状況。
前日の移動と準備
2018年6月1日の金曜日、午後休を取って夕方から高崎へ。前年の群馬と長野の遠征でも利用した高速バスで新宿から高崎まで移動し、高崎駅でレンタカー(フィット)を借りる。暗闇の中で栗原川林道を通行するリスクを避けるため、手前の道の駅白沢で仮眠を取った。
日が変わって薄っすら明るくなってから、いよいよ悪名高い栗原川林道に挑戦。この時点で既に、登山よりもアクセス路の方が緊張感が高まっていた。
実際に登ってみた
日程: 2018年6月2日(土) [日帰り] 天候: 晴れ
アクセス
往路: 新宿 → 高崎駅 → 道の駅白沢 → 皇海橋
復路: 皇海橋 → 武尊山(次の目的地)
皇海山登山口への栗原川林道は、根利側からの通行止めのため、追貝側からアプローチ。日の出前の暗闇で落石だらけの林道を通るリスクを避け、明るくなってから林道進入するよう出発時間を調整した。

林道に入ってすぐは普通のダート道で「大したことない」と気を抜いたが、「落石路肩 悪路キケン」の威嚇的な看板が現れ、その後は否が応でもその意味を痛感することになった。

追貝側入口から1時間程度進むとトンネルが現れ、この辺りからは明らかに鋭利な落石が目視でき、車で石を踏む感触がある度にヒヤヒヤの連続だった。
地図・標高グラフ
⏱タイム | 🏃距離 | ↗登り | ↘下り |
---|---|---|---|
02:56 | 6.9km | 829m | 833m |
コースタイム
ルート: 皇海橋-不動沢のコル-皇海山-不動沢のコル-皇海橋
- 05:39
- 06:32
- 07:11
- 07:42不動沢のコル
- 08:29
下山後の感想
皇海山は「山そのものよりもアクセス路の方が印象深い」という、日本百名山では珍しいタイプの山だった。栗原川林道の悪路は確かに悪評通りで、パンクのリスクを常に意識しながらの運転は、登山以上の緊張感と集中力を要求された。
登山そのものは技術的な難しさもなく、むしろ拍子抜けするほど平凡。展望に乏しい山頂も含めて、「なぜこれが百名山に選ばれたのか」という疑問を抱かせる山でもある。しかし逆に言えば、この特異なアクセス環境こそが皇海山の個性であり、他では味わえない体験を提供してくれる。
靴擦れ対策のテーピングテープは効果的で、新しいツオロミーブーツでも問題なく歩けた。この後の武尊山、巻機山、苗場山でも継続使用し、遠征全体の成功に貢献してくれる装備となった。
梅雨時期でありながら晴天に恵まれたのは幸運で、悪天候下での栗原川林道通過は想像したくない。天候判断の重要性を改めて実感させられた山行でもあった。
昼食をとってから、本日2座目の武尊山へ向かった。
かかった費用と装備
遠征中にかかった費用は、遠征最初の百名山にまとめて書くことにします。
装備費用
- MUテーピングテープ38mm: 476円
- ジオライン クールメッシュ トランクス: 1,944円
- S.R.スプレー330mL: 1,338円
- O.D.メンテナンス ダウンクリーナー: 756円
装備費合計: 4,514円
交通費用
- 高速バス(新宿~高崎)往復: 2,790円(回数券利用)
- レンタカー70時間: 13,020円
- 桜坂駐車場(巻機山): 500円
- ガソリン代: 3,407円
交通費合計: 19,717円
宿泊・食費・その他
- 風呂: 400円
- 食費3日分: 6,000円(朝昼晩)
- 行動食3日分: 900円
その他費用合計: 7,300円
総費用
合計: 31,531円
3泊4日で4座を制覇する遠征としては、レンタカー代が大きな比重を占めるが、公共交通機関では不可能なルートを効率的に回れることを考えれば妥当な投資。特に皇海山のように特殊なアクセス環境の山では、車での機動力は不可欠だった。
今になって思うこと
皇海山は「アクセスの困難さが登山の一部」という特異な山だったことがより明確になる。栗原川林道での緊張感あふれる運転は、他の百名山では絶対に味わえない体験で、ある意味で貴重な思い出となっている。
2020年に栗原川林道が完全閉鎖となったことで、群馬県側からの皇海山登山は不可能になった。現在は栃木県側からの難易度の高いルートでしか登れなくなり、皇海山の「特殊性」はさらに際立っている。自分が登った時期は、まさに「最後の機会」だったということになる。
皇海山は確かに「登りやすい百名山」ではないが、その困難さも含めて百名山の多様性を象徴する存在。現在のアクセス状況を考えると、当時の栗原川林道経由でのアプローチができたのは、貴重な体験だったと改めて感じている。