富士山に向かうまで
2009年頃、名古屋でオフィスを構えて自営業をしていた時期。当時ITエンジニア界隈では勉強会ブームが起きており、様々なテーマで技術者同士が集まる機会が増えていた。そんな中で見つけたのが「日本最高の勉強会(標高的な意味で) at 富士山」という、完全にネタ要素満載のイベント。
現在でいうところの「SNS登山」の先駆けのようなもので、ネットで知り合った人同士が即席パーティーを組んで山に登るという企画。ITエンジニアらしいユニークな発想で、技術的な話をしながら日本最高峰を目指すという斬新な試み。
ここ数年は登山から遠ざかっていたが、幼少期に富士山に登った記憶があったので「なんとかなるだろう」という軽い気持ちで参加を決めた。名古屋組として車で向かうことになり、他に4名のメンバーと一緒に富士宮口五合目を目指すことに。東京から参加する1名とは現地合流の予定。
ITエンジニア同士ということで、登山中もプログラミングやシステム設計の話で盛り上がりそうな予感。ただ、富士山の標高を甘く見ていた部分もあり、後で苦労することになるとは思いもしなかった。
実際に登ってみた
日程: 2009年8月8日(土) ~ 2009年8月9日(日) [1泊2日] 天候: 晴れ
アクセス
往路: 名古屋から自家用車で新富士IC → 水ヶ塚駐車場 → シャトルバスで富士宮口五合目
復路: 富士宮口五合目からシャトルバス → 水ヶ塚駐車場 → 自家用車で名古屋へ
午前7時に名古屋駅で他のメンバーと合流。高速道路で新富士ICまで向かい、マイカー規制地点の水ヶ塚駐車場でシャトルバスに乗り換え。富士山の大きさを間近で感じながら、富士宮口五合目まで約45分の移動。

地図・標高グラフ
⏱タイム | 🏃距離 | ↗登り | ↘下り |
---|---|---|---|
08:04 | 10.7km | 1,472m | 1,458m |
コースタイム
1日目:2009年8月8日
14:00 富士宮口五合目 – 14:20 六合目 – 15:20 新七合目 – 16:10 元祖七合目 – 16:50 八合 – 17:20 九合(1泊)

富士宮口五合目で東京組のメンバーと合流。標高2,400mからのスタートとはいえ、高山病を心配しながらの出発。最初は観光気分で写真を撮りながらゆっくりペース。







六合目を過ぎたあたりから、徐々に登山道の厳しさを実感。砂礫の九十九折りが続き、一歩一歩が重くなってくる。新七合目では初めて雲海を見下ろす景色に遭遇し、標高の高さを実感。


元祖七合目付近からは酸素の薄さを明確に感じるようになり、ITエンジニア談義どころではない状況に。普段デスクワーク中心の生活では、この標高での運動は想像以上にハード。


八合目を過ぎるとメンバーの中では遅れる人も出始めて、荷物のサポートをし励ましながら一緒に登る。九合目の万年雪山荘に到着した時は、正直ほっとした。山小屋での仮眠は、翌朝の御来光に備えた体力温存が目的。
2日目:2009年8月9日
02:00 九合 – 02:30 九合五勺 – 03:00 富士宮ルート山頂 – 03:02 御殿場ルート山頂 – 03:32 須走下山口 – 03:34 吉田・須走ルート頂上 – 04:24 富士山頂 – 04:39 富士宮ルート山頂 – 04:54 九合五勺 – 05:09 九合 – 05:24 八合 – 05:44 元祖七合目 – 06:09 新七合目 – 06:34 六合目 – 06:44 富士宮口五合目
深夜2時の出発は、御来光を山頂で迎えるため。真っ暗な中をヘッドランプの明かりだけを頼りに登るのは、幻想的でありながら不安も大きかった。




頂上でご来光を一緒に迎えた時の達成感は格別、誰とでも感動を分かち合いたくなる瞬間。その後、せっかく来たのだからとお鉢めぐりを敢行。各ルートの山頂を巡りながら、富士山の火口を一周する。












日本最高峰の剣ヶ峰(3,776m)では、みんなで記念撮影。IT勉強会という名目なので、持ってきたパソコンや技術書を取り出し、やってる感を出した写真を撮った。苦労して登ってきた甲斐があったと心から思えた瞬間。






下山は同じ道を登りの何倍ものスピードで急降下。膝への負担が大きく、登りとは違った意味でのハードさを体験。五合目に戻った時の安堵感と達成感は、今でも鮮明に記憶している。
下山後の感想
久しぶりの3,000mを超える高山を体験し、高山病や酸素の薄さを身をもって理解できた。普段の運動不足がここまで響くとは思わず、日頃の体力づくりの重要性を痛感。
ITエンジニア仲間との登山という珍しい体験で、技術的な話題を山で語り合うという貴重な時間を過ごせた。ただし、標高が上がるにつれて会話どころではなくなり、お互いに黙々と登ることに専念。
御来光の美しさは予想以上で、特に雲海から昇る太陽の神々しさは言葉では表現できないほど。日本最高峰に立ったという事実も含めて、登山の魅力を強く感じた山行となった。
お鉢めぐりで各ルートの山頂を回ったことで、富士山の大きさと火山としての壮大さを実感。火口を間近で見る体験は、地球の活動を肌で感じる貴重な機会だった。
かかった費用と装備
この山行では費用を記録していないので、記録なしとします。
今になって思うこと
2021年に日本百名山を完登した現在振り返ると、この富士山登山が社会人になって自ら望んで登山をするという、登山趣味の入り口だったと実感している。「富士山に一度も登らぬ馬鹿に二度登る馬鹿」という言葉があるが、まさにその通りで、一度は登るべき山だと今でも確信している。
富士山の特別なところは、他の山から見える美しい稜線に実際に立ったという体験ができること。その後様々な山に登るたびに富士山を眺める機会があるが、「あの稜線に立っていた」という記憶が蘇り、登山体験に深みを与えてくれる。
ITエンジニア仲間との登山という珍しい体験は、今思い返してもユニークで楽しい思い出。技術者らしい合理的なアプローチで計画を立て、「日本最高峰で勉強会をする」というバカバカしい目的を持ちながら登ったのは、他では得られない経験だった。
高山病や酸素の薄さを初めて体験したのも富士山で、その後の高山登山における高度順応の重要性を学ぶ基礎となった。3,000mを超える環境での身体反応を知れたことは、後の北アルプスや南アルプス登山で大いに役立った。
ただし、やはり二度登りたいとは思わない(笑)。一度の体験で十分に価値のある山で、その後は他の山々からの富士山展望を楽しむ側に回るのが正解だと思う。でも、登山を始める人には必ず一度は体験してほしい、日本を代表する特別な山。