3年間にわたる東海道全行程493km踏破の全記録

江戸時代から続く歴史ある街道「東海道五十三次」。その名前を聞くだけで、歌川広重の浮世絵や弥次さん喜多さんの珍道中を思い浮かべる方も多いでしょう。でも、実際に自分の足で歩いてみたらどうなるのか?そんな素朴な疑問から始まった私の挑戦が、いつの間にか3年という月日を費やす壮大な旅になってしまいました。
2022年11月、日本百名山を踏破した後の「次なる挑戦」として選んだのが、この東海道五十三次の完全踏破でした。日本橋から三条大橋まで約493km、53の宿場町を経由する道のり。江戸時代の旅人たちが2週間ほどで歩いた道を、現代の私は仕事の合間を縫って18日間かけて歩きました。季節は春夏秋冬すべてを体験し、雨の日も晴れの日も、暑い日も寒い日も、ひたすら歩き続けた記録です。
東海道五十三次とは 〜歴史街道の魅力と現代に残る道筋〜





東海道五十三次というと、なんだか教科書的で堅苦しい響きがありますよね。でも実際に歩いてみると、これが実に人間臭い道なんです。江戸時代、参勤交代の大名行列から、お伊勢参りの庶民まで、さまざまな人々が行き交った日本のメインストリート。現代で言えば、東名高速道路と新幹線を合わせたような存在でしょうか。
面白いのは、この旧東海道の多くが今でも「生きている」ということ。国道1号線として車がビュンビュン走る区間もあれば、ひっそりと住宅街の中に残る石畳の道もある。時には「えっ、ここが東海道?」と思うような細い路地を歩いたり、逆に「おお、江戸時代の面影が!」と感動する宿場町に出会ったり。まるで時代のパッチワークのような道を歩くのは、想像以上に楽しい体験でした。
完全踏破記録 – 18日間の全行程
東海道五十三次 完全歩行記録一覧
日程 | 区間 | 主な宿場町 | 距離 | 特徴・難易度 |
---|---|---|---|---|
1日目 | 日本橋~横浜 | 品川宿、川崎宿、神奈川宿 | 約37km | 日本橋からスタート |
2日目 | 横浜~大磯 | 保土ヶ谷宿、戸塚宿、藤沢宿、平塚宿、大磯宿 | 約39km | 湘南海岸エリア |
3日目 | 大磯~小田原 | 小田原宿 | 約19km | 箱根への準備区間 |
4日目 | 小田原~三島 | 箱根宿、三島宿 | 約35km | 最難関・箱根越え |
5日目 | 三島~富士川 | 沼津宿、原宿、吉原宿 | 約35km | 富士山眺望区間 |
6日目 | 富士川~静岡 | 蒲原宿、由比宿、興津宿、江尻宿、府中宿 | 約35km | 薩埵峠越え |
7日目 | 静岡~金谷 | 丸子宿、岡部宿、藤枝宿、島田宿、金谷宿 | 約37km | 大井川手前 |
8日目 | 金谷~磐田 | 日坂宿、掛川宿、袋井宿、見付宿 | 約34km | 大井川渡河・佐夜の中山峠 |
9日目 | 磐田~新居 | 浜松宿、舞阪宿、新居宿 | 約30km | 遠州灘沿い |
10日目 | 新居~御油 | 白須賀宿、二川宿、吉田宿、御油宿 | 約35km | 三河国入り |
11日目 | 御油~知立 | 赤坂宿、藤川宿、岡崎宿、知立宿 | 約36km | 徳川家康ゆかりの地 |
12日目 | 知立~宮 | 鳴海宿、宮宿 | 約22km | 熱田神宮到達 |
13日目 | 桑名~南四日市 | 桑名宿、四日市宿 | 約22km | 伊勢国入り |
14日目 | 南四日市~加佐登 | 石薬師宿 | 約12km | 短距離区間 |
15日目 | 加佐登~関 | 庄野宿、亀山宿、関宿 | 約20km | 伊勢国最終区間 |
16日目 | 関~三雲 | 坂下宿、土山宿、水口宿 | 約25km | 鈴鹿峠越え |
17日目 | 三雲~南草津 | 石部宿、草津宿 | 約20km | 近江国最終区間 |
18日目 | 南草津~三条大橋 | 大津宿 | 約10km | ゴール!三条大橋到達 |



総距離: 約493km
総歩行日数: 18日間(すべて日帰り)
実施期間: 2022年12月~2025年1月(約3年間)
通過宿場数: 53宿場 + 出発点(日本橋)+ 到着点(三条大橋)
地域別詳細ガイド 〜493kmの道のりで出会った6つの顔〜
第1区間: 江戸・関東エリア(1-3日目) 〜都市から海辺へ、変化に富んだスタート〜
総距離: 約95km
主な見どころ: 品川宿、湘南海岸、小田原城





日本橋を出発して最初に感じたのは、「東京って意外と歩きやすい」ということ。確かに交通量は多いけれど、歩道はしっかり整備されているし、コンビニも多い。品川宿のあたりでは、ビルの谷間にひっそりと残る寺社や古い商店を見つけるたびに、宝探しのような楽しさがありました。
そして横浜を抜けて湘南海岸に出た時の開放感!都市の喧騒から一転、潮風を感じながら歩く道は最高でした。特に大磯の松並木は見事で、「ああ、旧街道を歩いているんだな」という実感が湧いてきます。このエリアの魅力は、まさに都市から自然へのグラデーション。東京のビル街から始まって、横浜の港町を経て、湘南の海辺へ。わずか3日間でこれだけの変化を楽しめるのは、東海道ならではの醍醐味です。
歩行のポイント:
- 都市部は交通量が多いため安全に注意
- 湘南海岸では海の景色を楽しみながら歩行
- 小田原では箱根越えの準備を
第2区間: 箱根・富士エリア(4-6日目) 〜東海道最大の試練と最高のご褒美〜
総距離: 約105km
主な見どころ: 箱根峠、富士山、薩埵峠






4日目の箱根越えは、正直言って地獄でした。標高差1000mの山道を、重いリュックを背負って登る。12月の寒風が容赦なく吹き付ける中、「なんでこんなことしているんだろう」と何度も思いました。でも、芦ノ湖が見えた瞬間、すべての苦労が報われた気がしました。
翌日以降の富士山の眺めは、まさに東海道歩きのハイライト。特に薩埵峠から見る富士山と駿河湾のコンビネーションは、歌川広重が描いた浮世絵そのもの。「200年前の人も同じ景色を見て感動したんだな」と思うと、時代を超えた共感を覚えます。このエリアは確かに体力的にきついけれど、その分、達成感と感動も大きい。まさに「苦あれば楽あり」を体現したような区間でした。
歩行のポイント:
- 箱根越えは十分な準備と体力が必要
- 5日目は比較的平坦で距離が長い
- 6日目の薩埵峠では富士山の絶景を堪能
第3区間: 駿河・遠江エリア(7-9日目) 〜大井川の歴史と遠州の風を感じて〜
総距離: 約101km
主な見どころ: 大井川、佐夜の中山峠、浜松




「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」。この有名な言葉を実感したのが、この区間でした。今は立派な橋が架かっているけれど、江戸時代は川止めで何日も足止めを食らうこともあったとか。橋の上から見下ろす大井川の流れを見ていると、当時の旅人の苦労が偲ばれます。
佐夜の中山峠は、箱根や鈴鹿に比べれば楽勝…と思っていたら、意外とキツかった。でも、峠の茶屋があって休憩もしやすい道なので心配ありません!遠州灘沿いの道では、強烈な「遠州のからっ風」を体験。向かい風で全然前に進まない時は泣きそうになりましたが、これも東海道の名物。浜松ではアクトタワーを目印にひたすら歩いた。歩いた分だけ休憩でいただく食事が美味しく感じるのは、徒歩旅の特権ですね。
歩行のポイント:
- 8日目の佐夜の中山峠は東海道三大難所の一つ
- 遠州灘沿いの区間では海風に注意
- うなぎで有名な浜松では名物グルメが沢山あります
第4区間: 三河・尾張エリア(10-12日目) 〜家康の故郷から熱田神宮へ〜
総距離: 約93km
主な見どころ: 岡崎城、熱田神宮



岡崎に入ると、そこかしこに「家康公」の文字が。生誕地だけあって、徳川家康推しがすごい。でも、実際に岡崎城下の岡崎二十七曲りを通ってみると、なるほど納得。ここから天下統一への道が始まったんだなと、歴史の重みを感じます。
この区間で印象的だったのは、宿場町の間隔がちょうどいいこと。疲れてきた頃に次の宿場が現れるので、メリハリをつけて歩けました。熱田神宮に到着した時は、ちょっとした達成感が。ここは草薙剣が祀られている場所。東海道を歩く旅人たちも、必ずここで参拝したんでしょうね。境内の静寂な雰囲気に、旅の疲れが癒される思いでした。
歩行のポイント:
- 岡崎では徳川家康関連の史跡が豊富
- 12日目の宮(熱田)では熱田神宮に参拝
- 距離は比較的短めで歩きやすい
第5区間: 伊勢・近江エリア(13-17日目) 〜工業地帯から歴史の宝庫へ〜
総距離: 約99km
主な見どころ: 四日市の工業地帯、関宿、鈴鹿峠、草津宿




四日市の工業地帯は、正直言って単調でした。煙突から立ち上る煙、無機質な工場群。「これも現代の東海道の姿か」と思いながら、黙々と歩く。でも、関宿に入った瞬間、まるでタイムスリップしたような感覚に。江戸時代の町並みがこれほど完璧に残っているとは!
そして16日目の鈴鹿峠越え。これが想像以上にきつかった。急坂と石畳の連続で、膝がガクガクに。しかも普段履きのスニーカーで挑んだものだから、足裏が悲鳴を上げる。この影響で、次の日も、その次の日も足が痛い。一週間経っても痛みが引かない。「装備の大切さ」を身をもって学んだ、苦い思い出です。でも、峠から見下ろす景色は素晴らしかった。苦労した分だけ、感動も大きいんですよね。
歩行のポイント:
- 四日市は工業地帯のため景色は単調
- 関宿は江戸時代の町並みが良好に保存
- 16日目の鈴鹿峠越えは要注意(足を痛める可能性)
第6区間: 京都エリア(18日目) 〜感動のフィナーレ〜
総距離: 約10km
主な見どころ: 大津宿、三条大橋




最終日、南草津から三条大橋までのわずか24km。距離は短いけれど、感慨深さは他の日の比ではありませんでした。琵琶湖を横目に見ながら、逢坂山を越えて京都へ。髭茶屋追分で「もうすぐゴールだ」と実感が湧いてきて、三条大橋が見えた時は、思わず「やった!」と声が出ました。
橋の上で振り返ると、3年間の思い出が走馬灯のように蘇ってきます。暑い日も寒い日も、雨の日も風の日も、ただひたすら歩き続けた493km。誰に強制されたわけでもない、自分で決めた挑戦。それをやり遂げた達成感は、何物にも代えがたいものでした。
歩行のポイント:
- 比較的短距離で達成感を味わいながら歩行
- 三条大橋での完走の感動は格別
東海道三大難所を実際に歩いて 〜現代人が挑む江戸時代の試練〜
東海道には古来より「三大難所」と呼ばれる困難な区間があります。実際に歩いた体験から、その難しさと攻略法をお伝えします。
1. 箱根峠(4日目: 小田原~三島) 〜現代人が挑む江戸時代の試練〜
難易度: ★★★★★
標高差: 約1000m



実体験レポート:
「東海道一の難所」の名は伊達じゃありませんでした。朝8時に小田原を出発して、延々と続く上り坂。最初は「まあ、登山に比べれば楽勝でしょ」なんて思っていたけれど、甘かった。舗装路の登りって、山道とは違う辛さがあるんです。
特に冬の箱根は容赦ない。12月29日、気温は氷点下近く。凍えるような寒風が吹き付ける中、ただひたすら足を前に出す。甘酒茶屋で飲んだ熱い甘酒が、まるで天国の飲み物のように感じました。でも、苦労の末に見た芦ノ湖の美しさ、そして翌朝の富士山の雄姿は、一生忘れられない光景です。
2. 鈴鹿峠(16日目: 関~三雲) 〜油断大敵、膝殺しの下り坂〜
難易度: ★★★★☆
標高差: 約400m



実体験レポート:
鈴鹿峠は「箱根ほどじゃないでしょ」と完全に舐めていました。確かに標高差は400mほど。でも、問題は下りでした。延々と続く石畳と階段の下り。一歩一歩、膝に衝撃が蓄積されていく。しかも、この日はなぜか普段履きのスニーカー。
結果は散々でした。三雲駅に着く頃には、もう足が棒どころか、燃えるような痛み。この影響で、2日後の元日歩行も足を引きずる羽目に。さらに一週間経っても痛みが引かず、「足底筋膜炎の一歩手前」と診断される始末。鈴鹿峠、恐るべし。見た目に騙されてはいけません。
3. 薩埵峠(6日目: 富士川~静岡) 〜絶景に隠された試練〜
難易度: ★★☆☆☆
標高差: 約200m



実体験レポート:
薩埵峠は、三大難所の中では最も楽…というか、むしろ楽しい峠でした。標高差200mなんて、箱根や鈴鹿を経験した後では朝飯前。でも、この峠の真価は別のところにありました。
峠の展望台から見る富士山と駿河湾のコラボレーション。これぞまさに「ザ・東海道」という景色。歌川広重もここで筆を執ったんだなと思うと、感慨もひとしお。難所というより、東海道のハイライトスポット。苦労して登った分、この絶景は格別のご褒美でした。
季節別歩行体験
3年間にわたる歩行で、様々な季節の東海道を体験しました。それぞれの季節の特徴と注意点をご紹介します。
❄️ 冬季歩行(12月-1月) 〜澄んだ空気と凍える指先〜
実施区間: 3-4日目、17日目
特徴: 寒さとの戦い、空気が澄んで景色が美しい



4日目(12月29日)の箱根越えでは、厳しい寒さの中での歩行となりました。しかし、空気が澄んでいるため富士山や芦ノ湖の景色は格別でした。
17日目(1月1日)の元日歩行は、鈴鹿峠で痛めた足の状態での挑戦でしたが、新年に相応しい清々しい気持ちで歩けました。
冬の東海道には、独特の魅力がありました。何より空気が澄んでいて、富士山がくっきり見える。箱根越えの日は、芦ノ湖に映る逆さ富士まで拝めました。元日の近江路では、初詣の人々とすれ違いながら、新年の清々しい空気を満喫。
ただし、防寒対策は必須です。特に早朝は手がかじかんで、スマホの操作もままならない。箱根の山中では、ペットボトルの水が凍りかけていました。でも、寒い中で飲む自販機の温かい缶コーヒーの美味しさといったら!これも冬季歩行ならではの楽しみです。
🌸 春季歩行(3月) 〜気まぐれな春の天気と〜
実施区間: 10-12日目
特徴: 過ごしやすい気温、桜の季節



3月の春分の日、まさかの冷たい雨と向かい風。「春だから暖かいだろう」という甘い考えは見事に打ち砕かれました。でも翌日は一転、ぽかぽか陽気。この気まぐれさが春の特徴なんですよね。
梅や早咲きの桜を楽しみながら歩けるのは、この季節ならでは。服装の調整が難しい季節ですが、自然の移ろいを感じながら歩けるのは幸せです。
☀️ 夏季歩行(8月) 〜灼熱地獄と水分補給の戦い〜
実施区間: 13-14日目
特徴: 酷暑との戦い、水分補給が重要



8月16日、お盆の真っ最中。5ヶ月ぶりに再開した東海道歩きは、まさに灼熱地獄でした。朝6時スタートでも、もう暑い。アスファルトからの照り返しで、まるでフライパンの上を歩いているよう。
この日ばかりは、コンビニが100mおきにあってほしいと思いました。ペットボトル3本持っていても、午前中で空っぽ。「昔の人はどうやって夏を乗り切ったんだろう」と、先人たちの苦労が身に染みました。でも、歩ききった後にエアコンの効いた喫茶店で飲むアイスコーヒーの美味しさは、夏歩きの特権です。
🍂 秋季歩行(12月初旬まで) 〜ベストシーズンの東海道〜
実施区間: 7-8日目
特徴: 快晴で歩行に最適



12月初旬は、まだ秋の名残が感じられる絶好の歩行シーズンでした。紅葉は終わりかけでしたが、落ち葉を踏みしめながら歩く旧街道は風情満点。気温も歩くのにちょうどよく、汗をかいても不快じゃない。
特に静岡から金谷にかけての茶畑地帯は、この季節が最高です。お茶の収穫は終わっていますが、整然と並ぶ茶畑の緑が美しい。遠くに見える富士山、近くの茶畑、そして青い空。これぞ日本の原風景という景色を堪能できました。
宿場町の魅力発見 〜53の個性が光る〜
東海道53次の宿場町には、それぞれ独特の魅力があります。実際に歩いて発見した見どころをご紹介します。
時が止まったような宿場町たち

関宿を初めて訪れた時の衝撃は忘れられません。「え、ここ本当に現代?」と思うほど、江戸時代の町並みがそのまま残っている。しかも観光地化されすぎていないのがいい。普通に人が住んでいて、生活している。重要伝統的建造物群保存地区として、歴史的な町並みが大切に保存されています。

草津宿も印象的でした。東海道と中山道の分岐点として栄えた要衝の地。今も「追分」の道標が残っていて、「東海道」「中山道」の文字が。ここで多くの旅人が別れを惜しんだんだろうなと思うと、ちょっとセンチメンタルな気分に。
城下町の威厳と風格

小田原、岡崎、そして大津。城下町として発展した宿場には、独特の風格がありました。特に岡崎は「家康推し」がすごくて、街全体が大河ドラマのセットのよう。でも、それが嫌味じゃないのは、本当にここから歴史が動いたから。

小田原城周辺を歩いていると、戦国時代の面影を感じる石垣や堀の遺構に出会えます。城下町は単なる宿場以上の存在感があって、歩いていて飽きません。
海の恵みを感じる宿場町

大磯では、明治の政財界人が愛した別荘地の雰囲気が今も残っていて、ちょっとハイソな気分を味わえました。湘南発祥の地としても知られ、海岸沿いの松並木が美しい宿場町です。

新居宿の関所跡も面白かった。「入り鉄砲に出女」を取り締まった場所。今は何の変哲もない公園ですが、ここで厳しい取り調べが行われていたと思うと、平和な現代に感謝です。
東海道沿いの風情
各宿場町では、それぞれ異なる歴史と文化を感じることができました。古い町並みを歩いていると、江戸時代の旅人たちの足音が聞こえてくるような気がします。現代に残る歴史の痕跡を辿りながら歩く東海道は、まさに「生きた博物館」のような体験でした。
実用的な歩行ガイド
実際に18日間で完歩した経験から、東海道を歩く際の実用的な情報をお伝えします。
必要な装備
基本装備
- 歩きやすい靴: トレッキングシューズ推奨
- バックパック: 日帰り用30L程度
- 雨具: 軽量で透湿性の良いもの
- 帽子: 日よけ・雨よけ兼用
- 水筒: 1-2L、夏季は多めに
安全装備
- 膝サポーター: 鈴鹿峠、箱根峠では必須
- ファーストエイドキット: 絆創膏、痛み止めなど
- ヘッドライト: 早朝・夕方用
- 携帯電話: 緊急時連絡用
季節別追加装備
夏季:
- 日焼け止め、冷感タオル、塩分補給タブレット
冬季:
- 防寒着、手袋、カイロ、アイゼン(積雪の箱根峠)
雨季:
- 防水バッグ、ゲイター、替えの靴下
安全対策
体調管理
- 無理をしない
- 定期的な休憩
- 水分・塩分補給
天候対策
- 天気予報の確認
- 悪天候時の延期判断
- 雷雨時の避難場所確認
交通安全
- 国道歩行時は十分注意
- 反射材の着用(早朝・夕方)
- 歩道のない区間での注意
東海道を歩く意義と価値 〜なぜ今、歩くのか〜



3年間をかけて東海道を完歩して感じた、この旅の本当の価値についてお伝えします。
歴史との対話 〜200年前の旅人と心を重ねて〜
東海道を歩いていると、不思議な感覚に襲われることがあります。「この石畳を、200年前の旅人も歩いたんだ」「この一里塚で、昔の人も一息ついたんだ」。時代を超えた共感というか、人間の営みの普遍性を感じるんです。
特に印象的だったのは、旧東海道の石畳に残る轍の跡。何百年もの間、無数の大八車が通った証。歴史は教科書の中だけじゃない、足元にも道端にも、いたるところに刻まれているんだと実感しました。
現代社会への新たな視点
歩いてみて初めて気づいたのは、日本という国の「つながり」です。東京から京都まで、途切れることなく人が住み、生活している。田舎と都市がグラデーションのようにつながっていて、その境界は曖昧。これって、実はすごいことなんじゃないかと。
また、各地域の個性も歩いてこそ実感できました。静岡のお茶文化、浜松のものづくり精神、関西圏に入ってからの言葉の変化。日本は決して均質な国じゃない、多様性に富んだ国なんだと再認識しました。
自分の限界と可能性を知る
493kmを歩き通すというのは、決して楽なことではありませんでした。足が痛くて泣きそうになった日、雨でずぶ濡れになった日、暑さでフラフラになった日。でも、そんな日々を乗り越えたからこそ得られた自信があります。
「やればできる」という単純な事実。でも、これを実感として持てるかどうかは大きな違いです。東海道完歩は、私に「一歩ずつ進めば、必ずゴールに辿り着ける」という確信を与えてくれました。
人との出会いが生む物語
道中での出会いも、かけがえのない財産です。峠の茶屋のおばちゃんとの世間話、同じく東海道を歩いている人との情報交換、道を尋ねた時の地元の方の親切な対応。SNS全盛の時代だからこそ、リアルな出会いの温かさが身に染みます。
特に印象的だったのは、関宿で出会ったおじいさん。「わしも若い頃、東海道を歩いたんや」と、50年前の思い出を語ってくれました。時代は変わっても、東海道を歩く人の気持ちは同じなんだなと、不思議な連帯感を覚えました。
東海道歩行を始めたい方へ
初心者におすすめの区間
入門編(1日完結):
- 3日目: 大磯~小田原(約19km)
- 14日目: 南四日市~加佐登(約12km)
- 18日目: 南草津~三条大橋(約10km)
中級編(適度な挑戦):
- 2日目: 横浜~大磯(約39km)
- 12日目: 知立~宮(約22km)
上級編(本格的な挑戦):
- 4日目: 小田原~三島(箱根越え)
- 16日目: 関~三雲(鈴鹿峠越え)
段階的な挑戦方法
- 短距離から始める: 10-20km程度の区間から
- 体力を向上させる: 定期的なウォーキングで基礎体力作り
- 装備を充実させる: 経験に応じて装備をアップデート
- 難所に挑戦: 箱根峠、鈴鹿峠などの難所へ
- 全行程完歩: 最終目標として日本橋から三条大橋まで完歩
まとめ – 東海道五十三次完歩の価値 〜これから歩く人へのメッセージ〜


33年間、18日間をかけて歩いた東海道五十三次。振り返ってみれば、あっという間だったような、長かったような、不思議な感覚です。
この旅で得たものは数え切れません。日本の歴史や文化への理解が深まったのはもちろん、自分自身の可能性も再発見できました。そして何より、「歩く」という最も原始的な移動手段の素晴らしさを実感しました。
車や電車では見過ごしてしまう小さな発見。道端の地蔵さん、古い道標、季節の花々。歩く速度だからこそ見えてくる世界があります。そして、自分の足で歩いた道は、一生の記憶として心に刻まれます。
これから東海道を歩こうと考えている方へ。完璧な準備なんて必要ありません。歩きたいと思った時が、歩き時です。最初は10kmでも20kmでもいい。大切なのは、一歩を踏み出すこと。
東海道は逃げません。江戸時代から400年、多くの人に歩かれてきた道は、これからも歩く人を待っています。季節を変えて、何度でも歩いてみてください。きっと毎回、新しい発見があるはずです。
最後に、私の好きな言葉を。「千里の道も一歩から」。この言葉の本当の意味を、東海道が教えてくれました。さあ、あなたも最初の一歩を踏み出してみませんか?江戸から京都へ、時代を超えた旅が、あなたを待っています。
詳細記録へのリンク
各日程の詳細な歩行記録は、以下のリンクからご覧いただけます:
日程別詳細記録
- 1日目: 日本橋~横浜 – 東海道歩行のスタート
- 2日目: 横浜~大磯 – 湘南海岸を行く
- 3日目: 大磯~小田原 – 箱根への準備
- 4日目: 小田原~三島 – 東海道最大の難所・箱根越え
- 5日目: 三島~富士川 – 富士山を眺めながら
- 6日目: 富士川~静岡 – 薩埵峠からの絶景
- 7日目: 静岡~金谷 – 大井川手前の長距離区間
- 8日目: 金谷~磐田 – 大井川渡河と佐夜の中山峠
- 9日目: 磐田~新居 – 遠州灘沿いを歩く
- 10日目: 新居~御油 – 三河国への入国
- 11日目: 御油~知立 – 徳川家康ゆかりの岡崎を通る
- 12日目: 知立~宮 – 熱田神宮への到達
- 13日目: 桑名~南四日市 – 5ヶ月ぶりの再開、酷暑の中を行く
- 14日目: 南四日市~加佐登 – 短距離ながら充実の区間
- 15日目: 加佐登~関 – 江戸時代の町並みが残る関宿へ
- 16日目: 関~三雲 – 鈴鹿峠越えの難所
- 17日目: 三雲~南草津 – 元日歩行、近江路を行く
- 18日目: 南草津~三条大橋 – ついにゴール!京都三条大橋への到達
東海道の風景を凝縮したYouTubeの動画リストもあります
この記事は実際の東海道五十三次完全踏破記録に基づいて作成されています。各区間の詳細情報、安全対策、必要装備などは個人の体験に基づくものです。実際に歩行される際は、最新の情報確認と十分な準備を行ってください。
コメント