光岳、聖岳に向かうまで
最後に残ると言われている南アルプスの南端2座へ
日本百名山を踏破した登山者たちがよく口にすることだが、「南アルプスの光岳は最後まで残る」という定説がある。というのも、光岳は登山口までのアクセスが極めて悪い上に、山頂の眺望があまり良くないため敬遠されがちなのだ。
例に漏れず、自分も97座目にして光岳にアタックすることとなった。聖岳と組み合わせての1泊2日の山行は相当ハードな行程となる。しかし、南アルプスはこれで最後となるため、素晴らしい締めくくりの登山としたい。
芝沢ゲートへの深夜アプローチと自転車活用
2021年8月27日の朝、愛知県にある実家に帰省。それから数時間の仮眠を取って、午後10時に車で出発した。高速を使わず、国道153号で足助を経由してから茶臼山を越える道を選択。途中の道の駅遠山郷で、携帯電波が途切れる前に登山届を提出した。
日付が変わって28日の午前2時前、光岳の登山口となる芝沢ゲートに到着。しかし、芝沢ゲートの駐車場は既に満車状態。駐車できる場所が見つからずUターンし、1km以上戻ったところでようやく駐車スペースを確保。そこで短時間の仮眠を取って、午前4時頃に出発した。
実際に登ってみた
日程: 2021年8月28日(土) ~ 2021年8月29日(日) 1泊2日 天候: 2日間とも晴れ
アクセス
芝沢ゲートの駐車場は30台程度の収容だが満車のため、その1km手前に駐車。折りたたみ自転車を活用してアプローチ。
地図・標高グラフ
⏱タイム | 🏃距離 | ↗登り | ↘下り |
---|---|---|---|
21:29 | 45.8km | 4,289m | 4,283m |
コースタイム
1日目
ルート: 芝沢ゲート-易老渡-易老岳-光岳-易老岳-茶臼岳-茶臼小屋[泊]
- 03:56スタート地点
芝沢ゲートには午前2時頃に到着したが、既にゲート前駐車場は車で溢れており、1kmほど手前に駐車。少し仮眠をとった後に、折りたたみ自転車に乗って出発。1kmのディスアドバンテージも自転車があれば些細な誤差に過ぎない。
- 04:02
- 04:30
- 05:34
- 07:31
- 08:17
- 09:15
- 09:29
- 10:00
- 10:43三吉平
- 11:43
- 12:57
- 13:17
- 13:41
- 14:10
2日目
ルート: 茶臼小屋-上河内岳-薊畑-聖岳-奥聖岳-聖岳-薊畑-西沢渡-便ヶ島-易老渡-芝沢ゲート
- 02:54
- 04:07上河内岳の肩
- 04:15上河内岳
上河内岳 上河内岳の肩から分岐して上河内岳に登ったが、想定よりも早く着いてしまった。稜線に吹く風が容赦なく体を冷やす中、1時間後の日の出を待つ。
上河内岳 上河内岳 空が白み始めても、なかなか太陽は現れてくれない。じれったい時間を寒さに耐えながら過ごす。
ちょうど日の出の時間。一つの光点が富士山の左側に現れ、そこからは秒単位での日の出ショーが始まる。まばゆい光に自分も照らされ、気分的なものかもしれないが確実に温かみを感じる。
朝焼け 朝焼けに照らされたシルエットは、どこを切り取っても絵になる。
上河内岳 太陽が十分に上りきったところで上河内岳を後にする。
南アルプスのモルゲンロート 他の山域とは違った包容力のある温かみ。
影上河内岳 下山途中に影富士ならぬ影上河内岳が出ていることに気がついた。
- 05:25
- 05:49
- 06:34
- 07:05
- 07:42
- 08:39
- 09:09
- 09:29聖岳
- 10:01小聖岳
- 10:27
- 11:21
- 11:37
- 12:41西沢渡
西沢渡 西沢渡。その名の通り西沢を渡る。
西沢渡 西沢を渡るための仮橋がある時もあるようだが、そんなものは流されて存在しなかった。
人力ロープウェイ なので、この人力ロープウェイで沢を渡るのだ。下の紐を引っ張って滑車を経由し、ロープウェイを移動させる仕組み。先に着いていたおじさんとご一緒させていただくことになった。しかも、ロープウェイをこちら側に引き寄せ済みで、狙ったようなタイミングで到着してしまった。
人力ロープウェイ 真ん中までは軽い力でいけるが、真ん中からは2人の力を合わせても結構しんどい。ボルダリングみたいに腕がパンプアップするので、時折シェイクして休ませる。格闘すること5分で、ようやく対岸へ。
人力ロープウェイ 面白い乗り物だったが、もう次はいいかなという気分。1人だったら沢の上で絶望していたかもしれない。一緒に乗せていただき、ありがとうございました。
人力ロープウェイ 正式名称はワイヤーロープウェイ 正式名称はワイヤーロープウェイで、荷重制限は150kg。結構丈夫な作りなので、3人くらいは行けそうな気もするが、ロープ送りができる空間がないので、2人がベストだろう。
滝 便ヶ島への途中にあった滝。立派な橋があったり、土砂で押し出されたザレ場だったり、落差が激しい平坦路。
トンネル 便ヶ島までの道は、森林鉄道が通ってた跡なので立派なトンネルもある。
- 13:25
- 13:47
- 14:05
- 14:09ゴール地点
日本のチロルと呼ばれる下栗の里へ

下山してからの帰り道。せっかくなので下栗の里のビューポイントに寄ってみたのだが、駐車場から結構歩いて追加で登山しているような気分。日本のチロルと呼ばれる眺望が楽しめるそうだが、南アルプスの圧巻の展望を歩いてきたばかりの自分には特に何も感じられないのであった。

その後、実家に戻るも翌日には東京へ帰宅。泊まるだけかつ車を借りるために実家を使っていて、都合の良いベースキャンプとして活用してしまい申し訳ない。
下山後の感想
コース状況・危険箇所等
【易老渡→易老岳】
鉄橋を渡ってすぐ急登。よく整備されており、道を迷うこともなく登りやすい。面平までは10までのカウント、易老岳までは10から30のカウント表示された看板あり。
【易老岳→光岳ピストン】
三吉平までは平坦、そこからは光岳に向けてゴーロを登る。登りきったところに水場があり、あとはセンジガ原に癒やされるエリア。
【易老岳→茶臼小屋】
希望峰までは樹林と草原の繰り返し平坦路。希望峰から茶臼岳に向けては稜線ではハイマツ帯、鞍部は木道。茶臼岳はザレている。
【茶臼小屋→上河内岳→薊畑】
上河内岳の分岐から上河内岳へはすぐなので、絶景を見るなら是非登ろう。上河内岳からはヤセ尾根、崩壊しているガレ場など慎重に歩く場面あり。
【薊畑→聖岳ピストン】
小聖岳から前聖岳山頂まで砂礫の大斜面をつづら折りで登る。滑りやすいのと落石には十分注意。
【薊畑→西沢渡】
苔平付近まで倒木により道が遮られている所が多い、踏み跡に惑わされずにピンクテープを探したほうがよい。何回も倒木を潜ったりするので大きなザックだと大変かも。
【西沢渡→便ヶ島→易老渡】
ワイヤーロープウェイというアトラクションをクリアしたあとは、森林鉄道跡の平坦路。所々で土砂が崩れて押し出されている。
感想・記録
日本百名山を踏破している登山者たちの話の中で、「光岳と聖岳は最後に残るよ」とよく聞く話だったが、その通りに習い自分も97座目と98座目に登ることになった。最近の山行は日帰りばかりで、泊まりでの山行は約1年ぶり。それなのに結構な距離を歩く計画となったので不安がいっぱいで当日を迎える。
深夜に車で芝沢ゲートに着いた時、まさかの満車で面食らったが、折り畳み自転車を積んできたので手前に駐車となっても全然問題なかった。前回の山行、塩見岳でも鳥倉登山口まで自転車を使ったが、今回はよりなだらかな傾斜で自転車の機動性が大活躍した。2,000m下ってヘトヘトになっていた下山時も、易老渡で自転車にスイッチしてからは心地良いスピードで勝手に進んでくれたので、本当に自転車はオススメ。
最近の山行ではアクセスに車を使っている都合上、全行程がピストンとなることが多かったので、周回する縦走路は新鮮味があって満足度が高い。特に、西沢渡のワイヤーロープウェイなんて、良い経験になった。
次の山行が百名山踏破となる99座目と100座目になる予定。最後は天気が良い時に行きたいので、今年は諦めて来年になるかもしれないが体調管理に気をつけて当日を迎えたい。
かかった費用と装備
遠征中にかかった費用は、遠征最初の百名山にまとめて書くことにします。
交通費用
- ガソリン: 実家からのため 0円
- 1日自動車保険×2日: 3,600円
交通費合計: 3,600円
食費・その他
- 朝昼晩 2日分: 4,000円(概算)
- 行動食 2日分: 600円
食費合計: 4,600円
総費用
合計: 8,200円
今になって思うこと
コロナ禍のため、この前年は南アルプスの山小屋はほぼ閉鎖されており、2021年シーズンはどうなるか心配だった。しかし、小屋の運営は行わないものの、避難小屋として素泊まりはできるように開放されていたため、テントを持参せずに済んだのは非常にありがたかった。
アクセスが悪く秘境のような易老渡や便ヶ島だが、2022年シーズンでは芝沢ゲートより先にタクシーで乗り入れできるようになったり、便ヶ島にある聖光小屋が7年ぶりに営業再開したりと明るいニュースも多いようだ。
光岳・聖岳の山行は、南アルプス南部の奥深い魅力を存分に堪能できる素晴らしい体験だった。人力ロープウェイという貴重な体験も含めて、一生忘れられない思い出となった。